アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

水戸室内管弦楽団東京公演

2012年1月22日(日) 19:00開演
 
 
久しぶりの歴史に残る演奏会に出会うことができました。
 
今回の水戸室内管弦楽団の東京公演は、始まる前からの紆余曲折がありました。
19日の水戸での定期演奏会の後(19日の模様はこちら)、
「経験したことのない疲労」を感じ、20日の公演をキャンセル。当日のコンサート会場では、説明にあたり、吉田館長が客席から異例のスピーチをしたなど、いろいろと波乱があったようですが、指揮者なしで素晴らしい演奏が披露されたとのこと。
 
そして、なんとしても東京公演には間に合わせたいと休養をとり、
当日の昼になって、演奏順を変更したうえでハイドンの1曲の実を指揮するということで、開催が決定しました。
いろいろな思いの人がいらっしゃるでしょうが、
私としては、水戸室内管弦楽団の指揮者なしの演奏を聴くことができ、
さらに小澤さんの指揮でハイドンを聴けるというのは、むしろ楽しみとして解釈することにしました。
 
そして迎えた演奏会。
こんな素晴らしい経験はめったにできません。
この感動を前回同様忘れないうちに書いておきたいと思います。
 
ほぼ満員のサントリーホールに、やや遅れてメンバーが登場します。
満場の拍手が楽団を迎えました。
 
1曲目のモーツァルトのディヴェルティメントK136。
水戸室内管弦楽団としても、ほとんどのメナバーが所属しているサイトウキネンとしても定番の曲です。
指揮者なしでの演奏ももちろん何度もしている曲。
この曲は、1月19日の水戸での演奏会でも、指揮者なしで演奏されました。
やはり水戸芸術館の響きとは異なり、ややわんわんした感じではありましたが、
美しい調べは19日とほとんど変わりませんでした。
響きの中でしっかりしたらいんみたいなものがぼやけるように聞こえましたが、そのうちにしっかりとなじんできて、いつもの美しい水戸室内管弦楽団の音が響き渡りました。
2楽章がすこ~しゆったりめに感じたのは気のせいか、または響きのせいかもしれません。
3楽章を終えると、大きな拍手が巻き起こりました。
 
続いて順番を変更しフルメンバーが登場してのモーツァルトのハフナー交響曲
これはいろんな意見が出るかもしれません。
小澤さんが指揮をした19日とは、やはり少し違っていました。
初めの辺りが少し響きすぎてしまっていたのか、
もしくはやはり合わせにくいのか、ややスリリングに聞こえる部分がありました。
しかし、そこが名手ぞろい。1曲目同様、いやそれ以上に、演奏が続けば続くほどまとまりを見せ、実にダイナミックなモーツァルトが響きわたりました。
もちろんテンポや弾き出しの安定感など、指揮者がいない不安感がないわけではありませんが、これこそ生の音楽の楽しみ、CDでパッケージングされた音楽ではない楽しみとして、魅力に感じることができるほど、全員で音楽を作り上げていく気持ちが完全に勝っていました。
やはり、これが水戸室内管弦楽団の真骨頂です。
大満足のハフナーでした。
もちろん満場の大拍手があったことは言うまでもありません。
 
前半が終わり、休憩はめずらしく30分。
 
気分を良くしてスパークリングワインなどをたしなんだ後、 
後半に向けて席に着きます。
私がいたのは左サイドの席でしたが、その真正面の右サイドでは、スーツ姿の人たちが出入りします。
大方の人が席に着いたころ、右ブロックにさっとマスコミの人たちが登場し、テレビカメラのライトを照らします。
さらに黒服のSPたちが居並んだかと思うと、天皇皇后両陛下が姿を現しました。
一斉に会場から盛大な拍手がわき、観客が総立ちでお迎えしました。
こういったマナーと言うのは、初めての経験でしたが、みんななんとなくできるものなんですね。
 
ゆっくりと階段を下りられた両陛下は、会場全体に手を振り、右サイドの一番下の2つだけ並んだ席につきました。その後方は通常の人たちにしてはそろい過ぎているスーツの色、宮内庁関係者でしょうか。通路を挟んだ反対側は、一部水戸室内管弦楽団関係者がいますが、そのほかはやはりSPというか皇宮警察というか、そのあたりでしょう。特に通路側はすべて男性の警備担当と思われる人たちが座っていました。
ブロック1つ分をうまく利用して、警備をしているといった感じです。
天皇陛下が来られる際には、確かにブロックごとに警備した方がやりやすいですね。
休憩後の後半だけ来られたというのも、このオペレーションを考えれば、仕方ないことなんでしょう。
なにはともあれ、ご尊顔を拝したのは初めてでしたので、ちょっとミーハーに拝見させていただきました。
 
両陛下をお迎えする拍手がおさまり、今度は楽団と小澤さん、そしてソリストの宮田さんが入ってきます。いつもの通り、一緒の入場です。
小澤さんが指揮者の定位置につき、会場を振り返ると、両陛下を迎える時のの倍もあるのではないかと思うほどの拍手が会場を埋め尽くしました。やはりお待ちかねは小澤征爾さんなんですね。
 
そしてハイドンのチェロ協奏曲第1番です。
今回は、曲に専念するのではなく、小澤さんに注目したいと思い裏側の席を取りました。なので、小澤さんをじっくり見ていました。
協奏曲と言うこともあってか、やや小さめの振りで楽団をまとめつつ、ほとんどの時間、ソリストの宮田さんとのアイコンタクトが続きます。厳しい目、やさしい目を使い、曲調や出だしをいつもの腕からではなく、顔の表情や微妙なあごの動きなどで伝えているかのようでした。
それをうけて、美しい楽団本来の音にさらに統率された緻密さを加えて、ひときわ美しい楽団の音楽と、宮田さんの若々しいのびやかなチェロが、えも言われぬ音楽を作っていました。
ただ、ときおり深い息を吸おうとした時、少し痛みを覚えているような顔をされるのが、本当に心配です。
今回も用意された椅子は2つ。ひとつは指揮中のためのものですが、第1楽章でカデンツァの時に少し座ったくらいで、あとはほとんど座らずに指揮をされていた気がします。
もうひとつは楽章間に休むもので、今回もそこに座って水を口に含ませたりしていました。
19日よりはその時間は短かったように思いますし、楽章間でも楽団員がチューニングをしたりなどしてうまく間をつないでいました。
 
あっという間に音楽が終わり、破顔一笑のマエストロ。 
割れんばかりの拍手が起こりました。
観客にこたえる小澤征爾と楽団員が、目線を両陛下に向けると、すっと立ち上がって拍手をされました。
それにきっかけを受けるように、サントリーホール内全員が、スタンディングオベーションを送りました。
これまでにないほど何度も何度もカーテンコールは続き、会場が一体となって水戸室内管弦楽団と、小澤さんの指揮に拍手を送りました。
何度か感動的な場面に出会ったことがありますが、あんなに会場全体でのスタンディングオベーションを見たのは初めてです。
 
5度くらい呼び戻されたのち、会場が明るくなり、両陛下が会場に向かって一礼されると、今度はそちらをお見送りする拍手へと変わりました。階段を上られて最後に扉を出る前に、四方すべての方向へ手を振ってこたえていらっしゃいました。
 
そんな興奮のうちに、コンサートは終わりました。
多くの人たちが本当に満足をしているというただそれだけではなく、その場でその空気を味わい、その音楽を味わうことができたという、ライブとしての満足感を多くの人が味わったという稀有なコンサートだったのではないでしょうか。
 
その後実は小澤さんを見送りたいと思い、楽屋口へ向かったのですが、救急車が待機しており、何らかの応急処置を行った模様で、小澤さんにとっては少し無理うをしたような公演だったのかもしれません。
できれば、そこまでしないでほしいというファンの気持ではありますが、そういったその時その時の縁者、観客の思いというのが、その時しか味わうことのできない音楽会という時間と空間を造り上げるのだということを強く感じました。
本当に幸せな夜でした。
 
次の小澤さんの公演は、3月の小澤征爾音楽塾の蝶々夫人の横浜公演です。
なかなか長いオペラを指揮するまでに回復するのは難しいのではないかとも思いますが、期待と、快復への祈りを込めて待ちたいと思います。
 
 
 
*1/25追記 
本日の倉敷公演は、やはり指揮者なしでの開催となったようですね。
長時間の移動と疲労が回復しきれていないことによるそうです。
無理をしないで、少しずつ音楽を聞かせてください!