アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

吉田秀和さんのお別れ会

高名な音楽評論家で、水戸芸術館館長の吉田秀和さんが5月22日に亡くなった。
そのお別れ会が、吉田館長の創設した水戸室内管弦楽団定期演奏会にあわせて、5日に水戸芸術館で、そして9日にサントリーホールで行われた。
 
個人的な面識があるわけではないが、大学時代から通い詰めた水戸芸術館
折に触れてお姿を拝見し、時に話しかけさせていただいたこともあった。
何と言っても、今年の1月の水戸室内管弦楽団の東京公演の際、楽屋口で館長の車の脇に偶然立っていたため、私に軽く会釈をして車に乗り込まれた姿が忘れられない。
 
水戸での会には行くことができなかったが、水戸市長らのあいさつに続き、体調不良で参加できなかった小澤征爾さんのメッセージが流されたそうだ。
そして指揮者なしでバッハのアリア、定期演奏会の指揮者である準メルクルの指揮でラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌが献奏された。
 
そして今日、サントリーホールでの会に参加した。
ステージは白い花で飾られ、パイプオルガンの左手には大きな吉田館長の写真、右側にはスクリーンが配置されている。
演奏会の最中の拍手を遠慮するようアナウンスが流れ、間もなく開演と言うタイミングで、皇后陛下がステージ右川上の席へ。深く吉田館長の遺影に頭を下げ、席に着く。この一角は発起人の池辺晋一郎中村紘子森英恵、水戸室内管弦楽団の楽団代表の堀さんなどが座っている。
 
19時ちょうどに開式。
司会はNHKアナウンサーの桜井洋子さん。
初めに全員で黙祷。
ホールが完全な静寂に包まれたが、後半から会場の上の方からすすり泣く声が聞こえる。
 
弔辞は作家の丸谷才一さん。
体調不良のため録音でのメッセージだったが、吉田秀和さんの文章を読むことが趣味であるなどと語った。
続いて、かつてNHKの番組で撮られた在りし日の詩型を再編集した映像が流された。
 
そして水戸室内管弦楽団からの献奏。
 
バッハ(マーラー編曲):G戦上のアリア
 指揮:小澤征爾
 指揮:準メルクル
 
初めから見慣れた小澤さん用の椅子が置かれていたこともあり、
もしかして今夜は指揮を振るのかと思っていたが、やはりメンバーとともに小澤さんが入ってきた。
振り絞るような、涙と温かみに満ちた、とても美しいアリア。
4列目の真ん中というとても恵まれた場所で、背中で哀しみをこらえる小澤さんを見ているだけで、目頭が熱くなった。
曲が終わり、余韻が消え去ってもなお手を下さない小澤さん。
その後メンバーとともに遺影に向かい黙祷を捧げた。
 
続いて指揮台を持ち込んで準メルクルさんが、定期演奏会の曲目でもあるジークフリート牧歌を、穏やかに、深みのある水戸室内管弦楽団の音が響き渡った。
その後、また遺影に黙祷し、献奏は終了した。
 
閉式を告げられると、皇后陛下は再度立ちあがって遺影に向かい頭を下げ、周囲の人が起立する中、退場され、その後静かにそれぞれが会場を後にした。
ロビーなどで見ると、お名前は存じ上げないが、音楽界だけでない方たちが来ていたことが分かった。
音楽がサントリーホールに流れながら、一度も拍手のない静かな会であったが、
いかにも吉田館長のお別れ会にふさわしい、おごそかで、穏やかで、音楽に満ちた素晴らしい会だった。