アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

水戸室内管弦楽団第99回定期演奏会

2017年5月12日(金)

MCO定期初日・・・
この言葉を安易に使うのが大嫌いではあるのですが、「奇跡の」コンサートに出会えた気がします。

グリーグ組曲「ホルベアの時代より」(弦楽合奏
グノー:小交響曲(管楽九重奏)
 ~休憩~
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番
 指揮:小澤征爾  ピアノ:マルタ・アルゲリッチ

水戸室内管弦楽団が100回を迎える直前に、これまでの30年近くにもなる歴史の集大成と言える、ベストプログラムが実現。

水戸室内の特徴は、素晴らしい弦楽、ソリスト級の管楽、指揮者なしでも演奏できるその能力と、小澤征爾他の指揮者によってもたらされる圧倒的な演奏、そして世界級のゲスト。
これのすべてが味わえるとは、かなり粋なプログラム。

ホルベアは、このところ世界のオザワ周辺で演奏機会の多い曲のひとつ。
一昨年のスイス、奥志賀のアカデミーで合奏の曲として取り上げていたのが始まりがった気がします。
奥志賀での公演は小澤さんが指揮をせず、東京での公演も、骨折か何かでキャンセルされました。
それでもアカデミー生の演奏はなかなか良いものでした。
その後昨年5月の新日本フィルで、ようやく小澤指揮でのホルベアが実現。
そしてこの夏には指揮者なしでのサイトウキネンオーケストラの演奏が待っています。
これらを考え併せても、ホルベアが最高潮に達するのは今回のMCOの演奏かと。
期待に違わぬ、圧倒的なホルベアを堪能することができました。
それぞれが聞きあいながら、決して遅れることもなく素晴らしいまとまりを見せる、とてもとても贅沢な一曲でした。

グノーの小交響曲は、これまた木管楽器の美しい旋律が入り交じる面白い曲。
完全に聞いたことがなかったが、全く飽きの来ない曲でした。
フルートだけが1本で、あとは2本ずつの構成ながら、工藤さんのフルートの存在感がずば抜けていて、とろけます。

休憩をはさんで、現代の巨匠の登場・・・
水戸芸術館の音響、距離感共に素晴らしいあのホールで、この二人が協演するのを間近で見られることの幸せに浸り続ける時間が、あっという間に過ぎてしまいます。

小澤さんは、珍しいことに眼鏡を首から下げて、楽譜を前に指揮。
リハが短かったのでしょうか。
とはいえ、ほとんど楽譜に目を落とすわけではなかった。しっかりとめくってはいたものの。
いつもにもまして
必要最小限の動きで、指先と顔の微細な動きから、オケを完全にコントロール
これほどまでにオケをきっちり操縦しないと協奏曲というのはうまくいかないものなのか。
ピアノにしっかりと寄り添いながら、オケをハンドリングする様子が良くわかり、目が釘付けになりました。
普段なら楽章の合間に少し休みを入れるところですが、体調が良いのか、はたまたアルゲリッチの銚子を切らさないようになのか、2楽章前にアルゲリッチに、「このまま続けて大丈夫」との合図が。
2~3楽章のところは、休みをほとんど要れずにピアノ独奏が始まるので、今回は指揮用の椅子から下りず、休憩用の椅子は使わなかった。
3楽章に入ったところで、小澤さんが破顔一笑、団員もピアノが始まったところでにこやかになっていたところを見ると、リハよりテンポが乗っていたのかな。

アルゲリッチさんのピアノは、なんというか独特。
ここまで距離感近くℳたのは初めてでしたが、準備や余韻のようなものは極力排して、指が鍵盤に吸い付けられるように動く。
叩いている感じもしない、なんというか指が鍵盤を走り回っている感じ。
それでいて、2楽章の右手の単旋律のところなど、どうやったらそんなピアニッシモを弾くことができるのだろう。
音はしっかりしているのに、淡く優しい音。
3楽章ではいかにも楽しくて仕方ないという感じで、体が動いていました。

あっという間の終演となり、何度かのカーテンコールの後総立ちに。
小澤さんがコンサートマスターの渡辺さんの椅子に半座りすると、拍手もやまぬうちにアルゲリッチの指が動き出す。

アンコール曲  シューマン/リスト編曲:献呈

初めて聞いた曲でしたが、ピアノという楽器の最も優雅なところを聞かせるような名曲。
このCD欲しい!

またも割れんばかりの拍手の中、カーテンコールの最後にはなんと二人の巨匠(おじいちゃんおばあちゃん)に手を引かれて、小澤さんの溺愛の孫が登場!
歌舞伎じゃないんだから、とも思いつつ、万雷の拍手に小さくお辞儀をしていました。

小澤おっかけの中でも、これまで特筆すべきコンサートがいくつかありました。
今回は間違いなくその一つとなるコンサートでした。
映像が残されなかったのが本当にもったいない。
CD録音をしていたようなので、それを楽しみにしたいと思います。