アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

森の音楽会 小澤征爾国内復帰公演

遅くなりましたが、先月末の小澤征爾さんの国内復帰公演の模様をメモしておきたいと思います。
コンサートは、森の音楽会の一環ですが、「NPO法人小澤国際室内楽アカデミー奥志賀」の設立記念演奏会の位置づけとなっていました。
 
イメージ 1
 
プログラムは以下の通りです。
 
バッハ:G線上のアリア ~東日本大震災で被害にあわれた人たちのために~
  指揮 小澤征爾   合奏 2011小澤国際室内楽アカデミー奥志賀
  中国の生徒たち4人
  日本の生徒たち4人
~休憩~
モーツァルト:ディベルティメントニ長調K136
チャイコフスキー:弦楽セレナードハ長調より 第一楽章
  指揮 小澤征爾   合奏 2011小澤国際室内楽アカデミー奥志賀
 
会場 奥志賀高原ホテル 森の音楽堂
 
これまで20年以上にもわたって続けられてきた、奥志賀高原での演奏会がサイトウキネンフェスティバルと有機的に結びつき、弦楽を中心とした教育機関として、NPO法人にまで発展したこのコンサート。
昨年は公開はされませんでしたが、小澤さんが食道がんから復帰して初めて指揮をしたのも、この森の音楽堂でしたし、一昨年は、声楽のプログラムとともに、チャイコフスキーの弦楽セレナード全曲の名演がありました。
今年は、1月に小澤さんが腰の手術をしてからは国内で初めての本格的なコンサートとなりました。
ちなみに、6月には同じ趣旨で始めたスイス国際室内楽アカデミー(奥志賀高原でのプログラムをヨーロッパでもと言って始めたもの)のコンサートが、ジュネーブ、パリで行われました。プログラムは奥志賀高原と同じだったようです。さらに日本ではこの前日に、こちらも毎年続けている山之内中学校でのコンサートがありました。
 
10時からの整理券配布ということで、東京を始発の新幹線で出発。
8寺過ぎに長野駅到着後、レンタカーを借りて奥志賀高原へ向かったのですが、渋滞に巻き込まれ、結局2時間近くかかってしまいました。
そんなわけで整理券を配布する奥志賀高原ホテルのロビーに着いたのは10時ちょうどでした。
平日の朝と言うのに結構な人が並んでいて、整理券は192番ということに。
ここから開演の1530までは、時折強い雨の降る高原でウロウロ、車でウトウトして過ごしました。
 
整理券ごとにホールへと入り、今回はここでと思っていた楽団の右後方の席をゲット。
ここで小澤さん復活の表情をという魂胆です。
ちょうどテレビカメラやカメラマンが私の後ろにいましたから、いくつか報道されていた小澤さんの写真は、まさに私の見た位置取りでした。
 
 
さて、時間になり演奏会が始まります。
学生たちと一緒に小澤さんが入ってきて、拍手がいっぱいに湧きます。
小澤さんから
私ごとですが、ちゃんとした演奏会は今年初めてです。
東北の犠牲者のためにバッハのG線上のアリアを演奏するので、
演奏後に拍手をしないで一緒に黙とうしてください。
というようなコメントがありました。
 
学生たちはチェロ、コントラバスをのぞいて立ったままで、まずG線上のアリアを演奏。
初めは少し硬い感じで、出だしがそろわなかったが、次第に気持ちが入ってきて、小澤さんの腕にどんどん寄り添っていくような感じになってきます。
これまで聞いた小澤さんのアリアの中では、少し早目の演奏で、最後の音が消えゆくように鳴り終わると、そのまま黙とう。
その後学生たちと小澤さんはいったん舞台を引き揚げました。
 
ベートーヴェンは、中国の学生たちのカルテットです。
まだまだ荒削りな演奏で、音が少し不安定な感じでしたが、一生懸命に弾いていて、好感のもてる演奏でした。
講師陣、小澤さん、小澤征良さんなどが、後ろの関係者席に座っているのが見えました。
小澤さんは楽譜を見ながらじっと聞き入っていて、暗かったせいか、時折非常灯の下に行って楽譜を見たりしていました。
 
続いてドビュッシー
こちらは日本人のカルテットです。
これは素晴らしい演奏でした。
ドビュッシーの音楽って、こんなに奥深い音楽なんだと思わせてくれる、私にとってはとても良い経験になりました。
ドビュッシーってあまりなじみがなかったものですから)
 
そして休憩。
雨が小降りになっていました。
 
後半は弦楽合奏です。
まずはモーツァルト
小澤さんはこれまでよりも少しだけ丁寧な指揮をしているように見えました。
刻みもしっかりと振っていて、それでいてサイトウキネンの演奏よりも軽快に第1楽章を奏でました。
第2楽章は、とても重厚に、小澤さんの表情詣でもものすごく気持ちが込められていました。
それに引き出されるように、弦楽合奏の少人数ながらも深い音が、しみわたっていました。
第3楽章もまた軽快に、音楽も小澤さん自身も実に表情豊かな演奏でした。
演奏が終わると、大きな拍手が起こり、全員で拍手にこたえます。
 
プログラムには書いていませんでしたが、第1楽章だけの演奏でした。
まず第1音で驚かされます。
少人数とは思えない重厚な音のパンチが襲ってきました。
モーツァルトの雰囲気とは一変です。
昨年のサイトウキネンの時よりも腰に痛みがないからなのか、全身に力があふれていて、音楽を完全に引っ張っていくのが、正面の位置から見ているので、よくわかりました。
思わずこちらも何か演奏しなくてはと思ってしまうほどです。
間もなく終わりというところで、響いている和音が変化しているとき、チェロが1泊早く次の音に入ってしまうハプニングがありましたが、その瞬間、ハッと条件反射のようにチェロの方向(こちら)を向き、鋭い目線を送ってきたときには、こちらが勝手に射落とされてしまうような凄さを感じました。
そして美しい響きがホールいっぱいに響いて、うわんという残響を残して曲が終わり、破顔一笑の小澤さんがいました。
またも割れんばかりの大拍手で、カーテンコールが続きました。
その間、小澤さんの復活を実感し、震災後緩んだ涙腺がまた湿ってきてしまったのですが、私だけでなく何人かが涙ぐんでいるのを目撃し、さらに感激するというサイクルにハマってしまいました。
あのNY以来7カ月、小澤切れが続いていただけに、砂漠で水を得たような妙な気持ちです。
 
イメージ 2
 
心から音楽に浸りきった満足感と、小澤さんの復活を見届けることができたという充実感に満ち溢れた、
なかなか得難い体験でした。
 
この感動を引きずりながら、今月のサイトウキネンフェスティバルに突入したいと思います。