アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

水戸室内管弦楽団第83回定期演奏会

本日(正確には昨夜)、水戸室内管弦楽団定期演奏会の初日を聴いてきました。
もう胸いっぱいです。
その感動を備忘録として記しておきます。
 
水戸芸術館 コンサートホールATM
 
指揮 小澤征爾
演奏 水戸室内管弦楽団
 
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(125a)
ハイドン:チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.VIIb-1
 チェロ独奏:宮田 大
モーツァルト交響曲 第35番 ニ長調 K.385〈ハフナー〉

今年初めての小澤征爾指揮のコンサートであり、
国内でのオーケストラ公演は、サイトウキネンのオペラ以来半年ぶりとあって、
大きな期待で当日を迎えました。
 
コンサートと同時に、茨城県立武道館での大スクリーンコンサート、そしてNHK水戸支局からの生中継と、多くの人がかたずをのんで見守ったコンサートとなりました。
 
コンサート会場の水戸芸術館は、震災で倒壊したパイプオルガンの修復工事の真っ最中でした。
開場を待ち切れず、多くの人たちが待っていて、長い列ができました。
配られたプログラムによると、1曲目のディヴェルティメントを指揮者なしで演奏するとのこと。
小澤さんの体調を考慮したのか、それとも水戸室内管弦楽団らしい指揮者なしの演奏の方が、より良いとの判断があったのかはわかりませんが、小澤さんの指揮で水戸室内でこの曲を聴きたいなと思っていた期待は、残念ながらかなわなくなりました。
 
開演時間を過ぎて、メンバーが拍手とともに入ってきました。
リラックスをした表情で、美しい演奏が期待できます。
ディヴェルティメントは、コンサートマスターの渡邊さんの目配せと呼吸によって、美しい音色が流れだします。
指揮者なしの演奏だと、心地よい不安定さがどうしても残るものですが、ここは慣れているこの曲ということなのか、第1楽章は全く不安のない、実に流暢な曲の流れです。
第2楽章に入り、やや速度が速めなのと、細部の粘り気みたいなものが少しさっぱりしているなと言う演奏でしたが、これはこれでまたさらりと聞くことができました。
第3楽章は走りがちになりそうなメロディーをそれぞれが支えあうような感じで、しっかりと着実に進むような演奏でした。
総じて、とても楽しく、音楽の「楽」を最も良い形で再現していたのではないかと思える、和気あいあいとしたすばらしい演奏でした。
 
ハイドンのチェロ協奏曲までの間、ステージマネージャーの佐藤さんが出入りします。
名物ステージマネージャーの宮崎さんが今回を持って引退され、跡を継ぐとのことです。
佐藤さんは、実は直接面識はないのですが、私の仕事先の社長さんの旦那様ということで、勝手な親しみがわいています。ご活躍を期待しております。
 
小澤征爾音楽塾のころからなんとなく知っていた宮田さんのソロで、ハイドンのチェロ協奏曲が始まります。
いつもの通り、小澤さんは楽団員に交じって出てきました。一気に拍手が大きくなります。
少しだけ顔色が良くなったように思うのは私だけでしょうか。
振りおろされた指から音が出ます。
さきほどの和気あいあいとした絆の音楽ではなく、今度は一気に統率された集団の音楽と変わり、誰が聞いてもわかるような劇的な音の変化を見せてくれました。
この意味では、1曲目を指揮者なしで演奏した真価がここにあったのかもしれません。
あまりの感動に、目頭が熱くなってしまいました。
若く有望なチェリストの熱い演奏と、少しだけ振り幅の少ない老練の指揮者の生み出す音楽が、とても美しく結実していて、これまた感激です。
曲の緩やかになる部分では、小澤さんはほんの束の間イスに座りながら指揮をとります。楽章の合間では、斜め後ろに用意されたイスに腰掛け、水を飲んで息を整えているようです。
これは毎回のことでした。
やはり楽章の合間の時間と言うのは、曲の一部であることは言うまでもありませんが、少しだけその時間が長くなってしまったのはいたしかたないことです。
メンバーも観客もじっと次の楽章を待ちます。
そんなこんなで、若い才能といぶし銀のぶつかり合いとなった協奏曲が終わりを迎え、大きな拍手に包まれました。
宮田さんのアンコールは、なんと滝廉太郎の荒城の月。シンプルなメロディをじっくりと聞かせてくれました。
 
休憩をはさんで3曲目。ハフナーの圧倒的なメロディーで始まります。
ハイドンの時とは違い、かつての指揮ぶりと変わらぬ大きな指揮で、曲をさばいていきます。
イスに気を配るときはあったのですが、結果一度もイスに座ることなく、ハフナーを振り切りました。
会場が一体となって、小澤さんの体から生み出される音楽を吸収している、そんな風に思えるような演奏でした。
休憩時にも、さきほどの曲のように微妙な音のない時間とするのではなく、楽団員たちが、チューニングをしたり、それぞれが話し合ったりしながら、小澤さんの息を整える時間を待ちます。会場もそれを暖かく見守り、全体でこの時間を作り上げているような、暖かい空気が漂いました。
これまで 作曲者の音を演奏者を通じて聴いているのが、コンサートの通常だと思っていましたが、今回は、小澤征爾と言う音楽家の音楽を、モーツァルトを通じて聴いている、そんな風に思えました。
 
割れんばかりの拍手が開場を埋め尽くし、何度も小澤さんとメンバーが呼び戻されました。
私も普段の2倍近い力で一生懸命拍手をしました。
湧きあがる拍手を抑えられませんでした。
そして幸福な時間が終わりました。
 
同じ時間と空間を味わうことができて本当に良かったと思える演奏会でした。
明日も水戸で公演、そして日曜には東京へとやってきます。
今度はサントリーホールと言う響きの中での演奏を聴く予定です。
同じ曲目のホールによる違いを聴き比べられる絶好の機会なので、楽しみにしています。
天皇皇后両陛下も臨席されるとか。
これも感動のコンサートになりそうです。
 
今年もがんばって追いかけます!!!
 
 
 
*1/22昼 追記*
翌20日の公演は、19日の公演の疲労が元に戻らず、指揮者なしでの演奏となりました。
さらに、23日の足利公演は中止、そして22日の東京公演は順番を変更し、
2曲のモーツァルトを指揮者なしで、ハイドン小澤征爾指揮で開催することになりました。
 
リハーサルなどは元気にこなされていたようですが、
やはり本番というのはどれだけの疲労なのか想像するべくもありませんが、
まさにハフナーでのこれまでをほうふつとさせるような指揮ぶりでは
15kgも落ちてしまった体重では、きつかったのでしょうか。
 
そして、今回の対応については、
水戸芸術館館長の吉田秀和さんからもコメントが出ていますが、
金額の変更や、キャンセルをおこなっているとのこと。
音楽を聴きに行くのですから、そして、リハーサルをすべてこなしているのですから、
小澤征爾」の音楽を聴くことには変わりないと思うので、
そこまでする必要があるのかという気もしますが、
やはりそこは小澤さんの姿を期待している人たち(もちろん私も)がいるのも確かなので、
実に誠実な対応だったと思います。
 
それにしても水戸室内だからこそ、指揮者なしでの公演ができ、
むしろそれがこの楽団の真骨頂でもあるのですから、
和気あいあいと、そして仲間の危機を救おうとする熱のこもった演奏が
繰り広げられることと思います。
今夜の演奏を楽しみたいと思います!