アンフォラのつぼ

花鳥風月の写真とクラシック音楽(特に小澤征爾)を追いかけています。

SKF松本2011 バルトークプログラム

今日(昨晩)はショッキングなニュースが飛び込んできました。
第一報はツイッターで知ったのだが、本日の本番に向けたリハーサル後の17時30分頃にドクターストップがかかり、小澤征爾さんが今夜の公演をキャンセルしたというのです。
軽い肺炎を発症し、脱水症状も見られるとのこと。
この公演に向けて、教育プログラム以外の仕事をせずに調整をしてきても、やはりオペラの本番に臨むということが大変なんですね。
昨年の手術以来体重が戻っていないということも考えると、免疫力が落ちているのかもしれず、大変心配です。
公演は、副指揮のピエール・ヴァレー氏が指揮をしたとのことで、長年にわたりアシスタントをしているヴァレー氏の指揮であれば、小澤さんと同様の素晴らしい公演だったろうと思います。
 
さて、また備忘録として初日の公演の様子を書き留めておこうと思います。
万が一これから鑑賞する方は、ご注意ください。
 
 
イメージ 1
 
 
2011年8月21日(日) 16時開演  まつもと市民芸術館大ホール
 
●(プログラム外)バッハ:G線上のアリア(大震災追悼)
 
バルトーク:バレエ「中国の不思議な役人」 〔全1幕〕
 
バルトーク:オペラ「青ひげ公の城」 〔全1幕 原語(ハンガリー語)上演〕
 
 
青ひげ公:マティアス・ゲルネ(青ひげ公の城)
ユディット:エレーナ・ツィトコーワ(青ひげ公の城)
Noism1 
井関佐和子、宮河愛一郎、藤井泉、櫛田祥光、中川賢、青木枝美、
真下恵、藤澤拓也、計見葵、宮原由紀夫、亀井彩加、角田レオナルド仁
Noism2 

    小澤征爾(青ひげ公の城)
合唱:SKF松本合唱団(中国の不思議な役人
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
演出/振付:金森穣
 
 
朝から開演まで時間があったので、きちんと動く古時計を展示する時計博物館を見学後、松本市美術館へ。
こちらでは、土門拳の昭和という写真展が開かれていて、かなり充実した内容に感動。さらに、サイトウ・キネン・フェスティバルの20年を写真と資料で展示している記念展があった。こちらも、なかなか見ごたえのある内容で、大満足。
 
さて、公演。今回はフェスティバル始まって以来初めての、日本人のみによるプロダクションだそうです。
 
舞台が暗くなると、ピットに小澤さんが。弦楽奏者だけを立たせ、客席を向いてお辞儀をする小澤さんに、復活の歓びと期待の混じった大きな大きな拍手と歓声が響き渡りました。演奏前なのに「ブラボー」みたいな声もあったような・・・。
でも、あれ?まさか順番が逆になった?とあせっていたお客さんも多かったはず。
そこにサイトウ・キネン・フェスティバルのゼネラルマネージャー栗田氏が現れ、東日本大震災で亡くなった方のために、バッハのアリアを演奏することと、曲が終わっても拍手をせずに黙とうしてほしいことを告げました。
そして、バッハが始まります。
先月末に学生たちの少人数弦楽アンサンブルで聞いた時とは全く違う、濃密なバッハが響きました。第1音からしっかりと音がそろい、サイトウキネンの特徴である深い音が、心に染みました。後半部はリピートせず、1度きりで、静かに消え入るように終わりました。小澤さんは切る動作はせずに、そのまま静寂の黙とうへ。大ホールが静まり返りました。
 
沼尻さんが登場し、中国の不思議な役人
金森さんという舞踏家の方の演出による無言劇(というより舞踏劇)が、実に面白いのです。音楽のすべてが物語として浮き上がり、膨らんでいくような感じでした。
役人は、やはり中国風の服を着て、国家に操られる人形として黒子によって操られています。3人の悪党は、ミミの養父母と義兄弟という設定。これが物語をうまく紐解いてくれていて、役人の3度殺されるその模様が、清に迫ってくるものがありました。
最後に首をつるされてしまうところも、演出ではそれ以上の恐怖感と緊迫感があり、音楽もそれにぴったりの陰鬱で暗い輝きがありました。
音楽だけで聞いているCDよりはテンポの揺れみたいなものが少なく感じるのは、舞踏と合わせるためなのかもしれないですね。
あっという間の1時間でした。
沼尻さんは指揮台にいたままカーテンコールを受けていらっしゃいました。足をけがされていたようです。
 
そして小澤さんの登場、青ひげ公の城。
黒を基調とする舞台に、8面の大きな板があり、7つの扉や通路を表すように、複雑な動きで刻々と変わっていきます。そこに燭台を持った黒子がいて、この2人の間が扉ということなのでしょう。巨大な人物の影をつかったりと、斬新な舞台演出でした。歌手はそれほど大きく動かないのですが、その間を心の中を表す舞踏家たちが踊ります。
歌手2人の力強い声は言うまでもなく、音楽も初めて聞きましたが、劇的な盛り上がりや不思議な響きなどが盛り込まれていて、さすがバルトーク。ただ、管弦楽のための協奏曲や、ピアノ協奏曲で思わせるような現代風の響きはあまり多くはないように聞こえましたが、どうなんでしょう。
小澤さんは、振り幅がやはり以前よりはちいさくなったなという印象で、音楽の大きな盛り上がりのところでも、力はこもれども、それほど大きな振りではありませんでした。ところが音としては小さくても、思いのこもった音のところでは、力強くそして大きく腕をふるっていました。音楽の引き出し方が、今までとは少しだけ違っているというだけなのかもしれません。
ほとんどイスに座ることなく、そしていつも通り暗譜で、1曲を振り切っていました。
暗闇と静寂の最後の場面では、客席も水を打ったように静かになり、緞帳が下がるまで無音の緊張が続き、閉まりきったところで大きな拍手が巻き起こりました。
歌手、合唱団とともにピットから出た小澤さんも、満面の笑みで何度もカーテンコールにこたえていました。
 
「本格復帰」という言葉は、小澤さんについては昨年から何度も使われていて、むしろ一体いつが「本格」なの?と言われそうですが、今回はニューヨーク公演以来ということでいえば、まさに「本格」復帰だったと思います。
(それだけに、今日の休演は本当に心配ですが・・・)
 
それにしても、今回オペラ初演出だったという金森さんの舞台、とても面白かったです。
これだけでも十分満足でした。
同じような年齢だと思うんですが、才能のある人と言うのはすごいですね~。
舞踏というジャンルに触れることができたのも、とても良い経験でした。
役人のミミ役の井関さんも本当に良かった~。
 
今後もこんな刺激の多い(曲目自体も確かに刺激的でしたが)プログラムをしてくれるといいな、なんて勝手な感想でした。